論文概要

タイトル:ソフトウェア構築の摂理に関する統一理論の研究
著者:根来文生(博士(後期)課程)


 本研究の目的は「ソフトの普遍的な定義」を求める事にある。

 其れが求められるならば,其の定義によるソフトの要件を決定する方法,プログラム製造の方法にも普遍性が見いだせると期待出来る。其の為に,本研究では 「自然界の存在は意図を反映して成立するとし,要件やプログラムも其れと同じ様に成立する」と仮定(1)し,其の為に,第1段階として「意図を定義する為 の仮想世界」を論考し,第2段階で其の仮説世界の論理性を用いて「意図を定義するモデル」を導出する為の論考を行う。

 この仮定に基づけば,要件並びにプログラムは何らかの意図を反映して成立する存在という事になる。
 そして,要件は其の意図を例えば自然言語で,プログラムは其の意図を例えばプログラム言語で論述されると言う違である。更に,本研究では「対象が定義さ れる事とは対象を満たす存在が成立することである」と仮定(2)する。そして,この仮定から上述の「意図を定義するモデル」の問題は「意図を定義する為の 存在を求めるモデル」に置き換えられる。 即ち,本研究では要件を決定する為の作業は「要件を決定する意図を定義する存在を求めるモデル」を,例えば,自然言語で論述する作業に置き換えられる。同 様に,其のプログラムは「プログラムを決定する意図を定義する存在を求めるモデル」を,例えば,プログラム言語で論述する作業に置き換えられる事になる。
 要約すれば,ソフトを決定する問題は従来の様に要件やプログラムを個別段階的に決定する問題から「意図を定義する存在を求めるモデル」を同時的に論述す る統一問題に置き換えられる事になる。そして,「意図を定義する為の存在」は本研究の成果により構造的に求められる関数と其の変数で定義出来る事になる。

 本研究ではこの関数の構造を「TDM」,変数の構造を「命題」と呼ぶ。
 特に命題の構造が「ソフトなる存在」を表す様に定義し直される場合,其の構造をPS(Predicate Structure),其の場合の関数をSF(Scenario Function)と呼ぶ。

 本研究では意図の直接的な定義は不可能であると仮定(3)している。しかし,仮に其の定義を与える存在に普遍性が成立するのであれば,其の普遍性の成立 する存在を用いて意図は定義出来るものと仮定(4)する。換言すれば,SFとPSはこの普遍性が成立する存在を定義する為の構造体である。

 ここで言う普遍性とは,例えば,質量を有する林檎の体積を質量を有しない林檎の体積に置き換えられれば,其の林檎は普遍性が成立すると仮定する。そし て,この関係が成立するのは質量を有する存在が究極を越える微小なる存在に分割され,質量を有しない状態に到達する場合に於いて成立すると仮定(5)す る。因に,上例の林檎なる存在にこの普遍性を求める事が出来ないのは当然である。
 本研究ではこの普遍性が成立する存在を「論理原子」としてモデル化する。そして,其れを用いて仮説世界の論理性が創出される。SFとPSの構造はこの論理性を用いて定義されるものである。

 従来のプログラムに対する電算機の役割は事前に約束された命令の実行順序に従い,其れを高速に実行する事にある。そして,其のプログラムでは事前に実行 順序を人為的に決めて置く必要がある。其れに対し,本研究で定義されるプログラムでは必然的にこの問題から解放される。即ち,本研究で定義されるプログラ ムでは電算機の実行時に,其の構造的性質から自律的に命令の実行順序が決定されるからである。換言すれば,この作用の成立はこれ迄のプログラムとは明らか に異なる特徴を表す。其れは電算機と言うものの役割迄変える事になる。

 本研究の第三段階では具体的にSFとPSを定義しソフト開発を実施する。そして,其の開発過程並びに電算機での実行の様子を評価する事 である。既にこの方法で開発され実用に寄与しているソフトは十指を越える。感覚的にはこれ迄の開発方法に較べ作業能率性が高いのは間違いがないと思われ る。しかし,従来の場合と同様に科学的に評価が行われているわけではない。例えば,以下の様な評価項目が想定される。

(1)作業者との親和性
(2)
要件採集定義作業の能率性
(3)
プログラム製造作業の能率性
(4)
検証作業の能率性
(5)
電算機との親和性
(6)
従来のプログラムとの親和性