論文概要

タイトル:主観的知能に基づく意思決定支援システム
Decision Support System based on Subjective Intelligence
著者:菅原幸平(博士(後期)課程)

 本研究は、意思決定支援システム(DSS)が推奨する目標や計画を達成可能な行動(代替案)の順位付けに対する有効性のさらなる改善に寄与する研究である。DSS は個人や組織の意思決定に対して、意思決定者の選択可能な代替案を科学的な評価に従って順位付けることによって、助言や支援を与える多基準意思決定(MCDM)の情報システムである。DSSは目標や計画に関連する情報に従って意思決定をモデル化し多様な判断基準を設けることによって代替案の順位づけを可能にしている。従来のDSSは目標や計画の達成に対して静的に設定された判断基準に基づいて、客観的に代替案を評価して順位付けをしている。しかしながら、意思決定者の状況は時間とともに変化するため、客観的な判断基準による静的な代替案の評価結果では意思決定者の異なる状況においては適合しない可能性がある。したがって、システムが評価した代替案の順位付けが意思決定者に対して不一致の場合は、意思決定を支援する効果をシステムから得ることができなくなってしまう。

 本研究では、従来のDSSが参照する目標や計画の達成に対して静的な判断基準と意思決定者の状況に基づく判断基準を統合することによって、意思決定者の状況に合わせた代替案の順位評価を可能にするアプローチを提案する。提案DSS がユーザである意思決定者の状況に合わせた代替案の順位付けを可能にすることによって、最適な意思決定の支援をユーザに与えることが可能になりDSS の評価結果の信頼性が向上する。

 本論文ではDSSを評価するために、会社内のソフトウェア開発ワークフローの事例モデルに適用した。従来のMCDM手法による代替案の分析結果と主観的な判断基準を考慮した提案アプローチの分析結果を、同じ事例を用いて比較することによって、提案アプローチが有効であることを示す。意思決定の支援はシステムが代替案を判断基準に従って順位づけをすることによって与えることが可能だが、代替案の数が増えることによって、意思決定者に対する支援情報の数が多くなる。過剰な情報表示は意思決定者に対して有効な情報を複雑にする。この問題を改善するために、単一の配列を判断基準に基づいて更新することを可能にする発見的問題解決(メタヒューリスティクス)手法の側面からも代替案の評価を行った。したがって、本論文では意思決定を支援する方法として、主観的な知能に基づく代替案の順位付けをするアプローチの他に、主観的な知能に基づくメタヒューリスティクス手法を用いた代替案の選出アプローチにおいても提案手法の有効性を比較評価している。本研究の提案アプローチは、医療診断の意思決定や地図ナビゲーションの意思決定など様々な社会的DSS の信頼性を高めるために応用することが可能である。