論文概要

タイトル:動詞に着目した発話の意味解析手法に関する研究
著者:菊池久一(博士(前期)課程)


本稿では、文区間が曖昧で、構文を逸脱した現象を含む口語文の意味解析を行う手法を 提案する。本手法は、音声対話システムにおいて、自然言語解析を行う際に用いる事を想 定している。音声対話システムの一般的な構成では、ユーザの発話を、次の様な手順にて、 機械処理が可能な意味表現に変換する。それは、ユーザの発話を音声認識部分は、文字列 による認識結果に変換する。文字列による音声認識結果が、言語理解部(自然言語解析部) にて、機械処理が可能な意味表現に変換される。その構成では、言語理解部が、音声認識 結果の文字列に対して、自然言語解析を行う事となる。

しかし、ユーザの自由な発話の音声認識結果に対して言語解析を行う事は多くの問題を 生ずる。その中で次の二点を取り上げる。一つ目は、音声認識結果は文の区間が不明確で あり、文の区間に分割する方法が問題となる。これは、一般的な自然言語解析の方法では 一文単位に処理を行う。それに対し、音声認識結果に通常は句読点が存在しない。句読点 が無い事で文の区間が不明確となる。音声認識結果に言語解析を行うには、何らかの方法 で、文の区間に分割する必要が有る。二つ目の問題は、音声対話システムにて扱うユーザ の発話は、口語文であり適切な構文に則して話されているとは限らない。構文を逸脱した 文は言語解析が困難となるので問題である。

そこで、文区間が曖昧で、構文を逸脱した現象を含む口語文の言語解析を行うために、 新たな手法を提案する。本手法の概略は、次のような事である。音声認識結果の文字列よ り、文区間を推定して一つの文を抽出する。抽出した文において、動詞を中心に意味構造 を構築する方法である。

本手法について、さらに説明を行う。手法の手順としては、最初に音声認識結果の文字 列を句の列に変換する。この句の列に対して動詞句と無音区間の長さの情報に注目して先 頭の一文を抽出する。抽出した一文中に含まれる動詞句中の動詞を中心として意味構造テ ンプレートと呼ぶ枠組みを使用して意味構造候補を構築する。複数構築した意味構造候補 にて意味要素の評価値を基に最適な意味構造候補を選び意味解析の結果として出力する。 一文の解析結果を出力したならば、次の一文を抽出し、また解析結果を出力する。入力の 文字列が有る限りこの一連の処理を繰り返す事とする。

本手法により、構文を逸脱した文を解析可能とする事を確認した。今後、さらに様々な 機構を本手法に組み込むことにより、扱うことのできる言語の現象を拡大する事を考案中 である。