論文概要

タイトル:ニューラルネットの構造学習による非線形時系列からの知識抽出
Knowledge Extraction from Nonlinear Time Series Using Structural Learning of Neural Network
著者:眞部雄介(博士(前期)課程)


我々は,時間とともに刻一刻と変化する動的な環境の中で生活している.そのような環境の中には,いくつかの要素によって構成された系(システム)が多数存在し,我々は,何らかの観測機器によってシステムを構成する一要素を定量的に計測することができる.このように,観測機器によって時間の変化とともに計測された値は時系列信号といわれる.時系列信号の中には,将来における変動を予測することが強く望まれるものも多く,時系列予測は非常に重要な研究テーマの一つである.本研究は,決定論的非線形予測といわれる予測手法に関する新しい試みを示すものである.決定論的非線形予測とは,カオスおよび力学系理論を用いた予測法であり,「観測時系列から元の力学系のアトラクタを再構成し,そのアトラクタの特徴を利用することによって時系列の解析・予測を行う」というものである.すなわち,時系列の変動そのものを自己回帰的にモデリングする従来までのアプローチとは本質的に異なる予測法である.観測時系列から元の力学系の方程式を推定することには限界があるが,元の力学系のアトラクタならば1本の観測時系列からでも再構成できることが数学的に示されている.再構成されたアトラクタは,元の力学系のアトラクタの幾何学的特徴を保存しているため,この特性を利用して時系列信号の解析・予測を行うことができる.決定論的非線形予測にとって最も重要な問題は,元の力学系のアトラクタを再構成するために、予測に先立って適切な時間遅れ座標ベクトルを作成することある.本研究では,データに内在する入出力関係の推定が可能な方法である「ニューラルネットワークの構造学習」を用い,最適な時間遅れ座標ベクトルを推定することを提案する.本研究は,大きく2つのことを提案する.一つ目は,本研究が対象としている時系列信号のように連続値を持つデータに対して有効な構造学習法の提案である.二つ目は,ニューラルネットの構造学習法を用いた時間遅れ座標ベクトルの推定法の提案である.前者では,既存の手法を改良した「分散抑制学習法」を提案し,二つの数値シミュレーションにより,提案手法の有効性を示す.後者では,分散抑制学習法を用いた時間遅れ座標ベクトルの推定と従来手法による推定との比較を,ノイズレスデータおよびノイズ付加データを用いた数値シミュレーションによって行う.また,推定された時間遅れ座標ベクトルを用いた予測シミュレーションを行い,提案手法の有効性を示す.